特定技能がベトナムで進まない理由
直近「技能実習生」最多輩出国となったベトナムが「特定技能外国人」としての輩出を望まないのには訳がある
<特定技能がベトナムで進まない理由>
- 在留資格「特定技能」に魅力がない
- 新型コロナウイルスの影響による渡航制限
- 悪質な仲介業者(ブローカー)を介在させたくない日本政府側と、悪質かどうかはさておき仲介業者(ブローカー)が介在できる余地を残したいベトナム政府側との思惑の違い
<応募者が最大の収益源となるので営業と捉えている>
先日、ハノイにある送り出し機関を見学させてもらったのですが、日本企業や監理団体から求人情報をもらって、その求人への応募者を集める係および活動のことを「営業」と呼んでいることが印象的でした。
施設案内をしてくれた人だけでなく、たまたますれ違ったスタッフさんにも「どんな仕事を担当しているのですか?」と聞いてみると「営業です」という返答で、詳しく聞いてみると募集活動のことでした。
その部署の札に書かれていた名称も「募集部」ではなく「営業部」でした。
考えてみれば、ベトナムの送り出し機関における主な収入源はベトナム人たちなので、最も大事な「営業活動=収益活動」なのでしょう。
彼らのいう営業活動(応募者を募集して管理する活動)が簡単でないことは想像つきます。
技能実習生の場合、"制度上は"日本で従事する職種・作業の"経験者"でなければなりません。
なので、例えば「かまぼこ製品製造作業」に就かせたいのであれば”かまぼこ製品製造会社”に6か月以上勤めていた者のみが対象となるのですが、新興国または発展途上国の中では比較的人口が多いベトナムであってもそのような該当者を頻繁に何十~数百人と見つけ出すことは困難を極めますし、誰もが日本で働くことを望むというわけではありません。
「年齢が〇〇歳以下」などといった条件が加わろうものなら、さらに該当者の母数が少なくなります。
従って、職歴を偽装する方法が編み出されて、日本の法務省管轄(入管を含む)等が黙認し始めたので、いつの間にか職歴偽装が常態化しました。
職歴偽装は、履歴書に適当なことを書けばいいだけでなく、企業から「在職証明書」を発行してもらわなければなりません。
職歴偽装は、どの送り出し機関もやっているところなのですが(やっていない送り出し機関があるなら声を高らかに上げて頂きたいです。)、その偽装の仕方については各送り出し機関によって違います。
- 実在するベトナムの会社から在職証明書を発行してもらう(※企業側にメリットがないので無料では引き受けてもらえないはずなので、金銭授受が発生していると考えるのが当然かと思います。)
- 実在しない会社の在職証明書を作る
- 送り出し機関の経営者・職員または関係者(配偶者・親族など)がベトナムに会社を作り、技能実習制度の職種・作業項目を網羅した定款を作成し、その会社から在職証明証を発行する
などなど・・・
色々と工夫が凝らされています。
ウソを貫くことは本当のことを述べるよりも大変ですし(つじつま合わせとか)、情報が洩れてはならないので(入管に提出した資料の職歴が偽変造されていることを本人が知らないケースが多いです)、しっかり者でないとできない仕事なのです。
「1」の場合は、財布の紐を握っている者でなければ交渉ができません。
なので、組織の大きさにもよりますが募集部(営業部?)というのは花形であり、一目置かれている人物しか就くことができません。
募集部(営業部?)がへそを曲げると、せっかくオーダーをもらっても採用活動を進められず、キャンセルするしかないので、会長・社長・その他の上役といえども募集(営業)担当者には気を使わなくてはなりません。
それでは組織統制が取れないので自社では募集部を持たず、すべて「外注する」という送り出し機関があります。
また、オーダーの人数が多いと自社の募集部(営業部)だけでは希望人数を集められず、各方面に散らばっている外注先に頼るというケースもあります。
こうして生まれた外注先が、この業界で名を轟かせている「仲介業者(ブローカー)」です。
ちなみに、これは「募集活動」における存在であり、他にも本来の意味での営業(受入れ企業の新規開拓)や各種役所手続きをスムーズに行うためなど、各方面に仲介業者(ブローカー)が介在します。
とりわけ"役所手続きに関して口利きできる存在"は、役所に影響力を与えられる人であり、それは政府の人(+その配偶者または親族など)が適任という論法が成り立つかと思います。
※影響力は地位が上がるほど権力を持ち、引退したOB/OGより現役の方が実行しやすいことは想像に容易いはずです。
ありとあらゆる仲介業者(ブローカー)がたくさん存在し、増殖し続けています。
すべてが悪質だとは言えませんが、悪質だったり悪党が含まれていることは間違えなく、
参入障壁が低いので稚拙・幼稚な者たちが次々に参入して弊害をもたらすので、
仲介業者&ブローカーは「悪質」だと一括りにされるようになりました。
今や技能実習生業界はベトナムにおける一大産業です。
「日本にいけばもっと稼げる」という担保のもと、ベトナムの庶民たちは借金をして、ユートピアを目指します。
そして、そのお金が送り出し機関や仲介業者(ブローカー)らを潤わせています。
同時に、悪質な送り出し機関や仲介業者(ブローカー)らの餌食にされたベトナム人たちが大勢います。
ベトナムのたくましさでもあるのですが、餌食とされた一部の犠牲者は、加害者側に回って他者に向けて日本行きを促す立場とってビジネスを始めます。
もともと技能実習制度(かつての研修生制度)は目的の趣旨に沿った運営がなされて成功事例が多々ある有意義なものでした。
実際にその実習・研修を体験したベトナム人の成功者が「日本に行けば自分のようになれる」と振舞ったことで後追いが増えていったのですが、今は逆にその成功事例を利用したPRと真実(≒悲劇)との情報戦となっています。
<日本政府vsベトナム政府>
ベトナム政府にとって「技能実習」は内需が活性化して、外貨も獲得でき(日本で稼いで貯めた貯金をベトナムに戻ってきて使うから)、かつ役人が影響力を発揮できる「一石三鳥」のおいしい制度なのです。
※制度なので日本とベトナムの両政府・役人が取り決めたルールに従わなくてはなりません。
それが「特定技能」は日本側の要求で仲介業者・ブローカーを介在させてはならず、本人たちからの徴収額は3600ドルまでと厳しく制限されてしまうと、うま味が失われてしまいます。(技能実習生が送り出し機関に支払う金額も3600ドルと決められているのですが、ほとんど守られていません。)
技能実習制度が「技術移転」であることは何年も前に形骸化しましたが、日本政府側は本来の意図とは逸れた形ですがベトナムにおける経済活性化としての「国際貢献」にはなっていました。
※経済だけの視点であり、多くの不幸を生み出したので社会的な面では非難を受けています。
特定技能を通じて日本政府が行ないたい健全化は、意図せず生じた経済活性化を後退させる動きとなります。
【まとめ】
- 技能実習制度は腐っているがベトナムと日本双方に需要がある
- 「特定技能」と「技能実習」は重複している面が多い
- 「特定技能」の魅力が乏しい(※良いところを見つける方が難しい)
だから特定技能はベトナムで進まない。
【あとがき ~菅首相のベトナム訪問によって進展するのか?~ 】
今月、総理大臣に就任後初めての外遊で菅首相がベトナム(とインドネシア)を訪問すると言われています。
両国トップ会談でこの話題がでるか否かはわかりませんが、担当責任者を引き連れて、実務会議が行われると予想しております。
先の入管法改正は、菅首相が官房長官時代に自身の選挙区の介護事業者から要望を受けたことがきっかけと言われていますので。
以上です。